ルイ・オスカル・ロティ作 アール・ヌーヴォーのプラケット 「鉄路は結ぶ」 パリ・リヨン・地中海鉄道


サイズ  59.2 x 44.8 mm  最大の厚さ 3.2 mm  重量 60.3 g

フランス  1901年



 19世紀末のフランス美術界において最も重要な芸術家のひとり、ルイ・オスカル・ロティ (Louis Oscar Roty, 1846 - 1911) による美麗なプラケット(長方形のメダイユ)。斬新な長方形のプラケットは、この彫刻家がイタリア・ルネサンス期の銘板にヒントを得て1880年に考案した様式です。

 プラケットの表(おもて)面には、鉄道の操車場と近代的な街並みを背景に、三人の女性と、その間に立つひとりの少年が浮き彫りにされています。





 向かって右端に背が高く表された女性は、ルテティア (LUTETIA) すなわちパリです。ルテティアはリヨンを迎え、その額に接吻しています。リヨンの古名はルグドゥヌム (LUGDUNUM) で、これは中性名詞ですが、都市を表すフランス語ヴィル (ville) あるいはシテ (cité) がいずれも女性名詞であることから、フランス語において都市は一般に女性として擬人化されます。





 画面左端にたたずむのは、地中海です。地中海 (la Méditeranée) も女性名詞です。地中海を擬人化した女性は、温暖な気候を示すナツメヤシの葉と薔薇の花を抱えて、少年に手を牽かれています。





 背中に翼がある少年は、メルクリウス (MERCURIUS, Mercure) の姿で表した「パリ・リヨン・地中海鉄道」です。自動車や鉄道に関連した企業の象徴によく使われるのは、下の参考画像の最上部にも見られる「翼がある車輪」の図像ですが、ここでは優美な女性たちの間に無粋な車輪を置くわけにはいかないので、メルクリウスを思わせる初々しい少年の姿に仮託して、鉄道を擬人化しています。

 メルクリウス(仏 メルキュール Mercure 英 マーキュリー Mercury)は神々の伝令、仲介者であり、商業、交易を司る守護神として、キリスト教以前のガリアで盛んに崇拝されました。珍しい属性として、1567年に出版されたヴァザーリ(Giorgio Vasari, 1511 - 1574)の「イ・ラジオナメンティ」("I Ragionamenti del Signor Giorgio Vasari sopra le invenzioni da lui dipinte in Firenze nel Palazzo Vecchio con Francesco Medici allora Principe di Firenze"  「議論集」)では、メルクリウスは芸術の守護神とされています。


(下・参考画像) 「翼がある車輪」が上部に描かれた「パリ・リヨン・地中海鉄道」のポスター。1895年




 メルクリウス、あるいは鉄道はリヨンをパリに結びつけたあと、地中海の手を牽いてやってきて、「このひとも仲間に入れてね」と、パリとリヨンに語りかけています。都市と都市、地域と地域を結び付け、人の行き来と物流を盛んにして繁栄をもたらすのは、メルクリウスと鉄道にまさにぴったりの役目です。





 この群像の背景には、19世紀のクラシカルな蒸気機関車と何編成もの列車、工場を含む建物群のシルエットが浅浮き彫りで表され、上部に「パリ・リヨン・地中海鉄道」(Paris-Lyon-Méditeranée) の社名と、画面右上には社章が彫られています。

 画面の下には「フェッロー・コンユンギット」(FERRO CONJVNGIT ラテン語で「鉄路は結ぶ」の意)と刻まれています。「フェッロー」(FERRO) は奪格ですから、より厳密に訳すと、「(パリ・リヨン・地中海鉄道が)鉄路によって(各都市・地域を)結ぶ」という意味です。

 「パリ・リヨン・地中海鉄道」はメルクリウスとして表された画面中央の少年で、都市と地域を表す女性たちを差し措いて、この作品の主役を務めています。本作品においてメルクリウスが若者の姿を取っているのは、この神格が少年神とされるゆえに当然のことでもありますが、それと同時に、少年神の生命力あふれる若々しい姿に仮託して、「パリ・リヨン・地中海鉄道」の発展を願う気持ちを表したものと考えることができます。

 画面の左下、地中海の足下付近に、オスカル・ロティの署名 (O. Roty) が刻まれています。



 プラケットの裏面には、現在も使用されているパリ・リヨン駅の駅舎が、非常に精緻な浮き彫りによって表されています。高さ67メートルの鐘楼を有するリヨン駅は、パリ12区にあり、南東方面に向かう列車の出発点です。パリ・リヨン駅の駅舎はマリユス・トゥードワール (Marius Toudoire, 1852 - 1922) が設計したもので、1895年から建設が始まり、1901年4月に完成しました。建築家トゥードワールの名前は、画面右端に記されています。





 画面上部には「株主総会」(Assemblée Generale des Actionnaires) の文字が見えます。このプラケットは 1901年4月の総会に出席した株主に授与されたものです。



 プラケットの縁にはコルヌ・コーピアエ(豊穣の角)のマークと「銀」(ARGENT) の文字が刻印され、本品がパリ造幣局で制作された銀無垢の高級品であることが分かります。




 当時のメダイユ、プラケットの素材は、ブロンズ、あるいはブロンズに銀めっきを掛けたものが普通です。本品「鉄路は結ぶ」は制作数が少なく、たいへん珍しいものですが、もし入手できてもブロンズ製のものがほとんどで、銀製はとりわけ稀少です。銀でできた本品は、おそらく大株主用に特別に鋳造された作品であろうと思われます。



 アール・ヌーヴォー全盛期に多くの美しい作品を発表したロティですが、この作品を仕上げた頃に体調を崩し、新たな作品をほとんど制作できなくなります。1901年に制作された本作は、19世紀フランスに花開いたメダイユ彫刻において最も優れた才能を見せたロティの、ひいては19世紀メダイユ芸術の、到達点ということができます。

 本品は百年以上前のものであるにもかかわらず、制作当時のままの状態です。工芸品としての美しさに、保存状態の良さと、とりわけ稀少なアンティーク品としての価値が加わり、得難い一品となっています。

 ご希望により、別料金にて額装いたします。額装料金は使用する額によって異なります。





プラケットの価格 88,000円 (税込・額装別) 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。



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